センター日記

鷺舞を見守り続けて600年。津和野の興亡を刻む「弥栄神社の大欅」

投稿日:2026年02月15日

津和野百景図第16図に描かれた弥栄神社の傍らに、松とは異なる力強い一本の樹木が描き込まれています。

これこそが、町の歴史とともに歩んできた町指定天然記念物、「弥栄神社の大欅(けやき)」です。

鷺舞よりも、さらに古く

この大欅の歴史は、室町時代まで遡ります。

  • 正長元年(1428年): 津和野領主・吉見氏四代目弘信が、三本松城下の守護神として京都から祇園社(現在の弥栄神社)を勧請。その際に植えられたと伝わっています。
  • 樹齢600年以上: 津和野の代名詞である伝統芸能「鷺舞」がこの地に伝わったのが天文11年(1542年)。この大欅は、鷺舞が舞われるようになる100年も前から、この地を静かに見守ってきたことになります。

巨木が抱える「時間」という課題

大欅が鎮座する弥栄神社は、観光のメインストリートである殿町通りから、日本五大稲荷の一つ・太皷谷稲成神社へと続く参道に位置します。 古くから人々に親しまれてきたこの場所ですが、時代の移り変わりと共に、木には過酷な環境となりました。

  • 踏み固められた土壌: 多くの往来により根元の地面が固まり、呼吸や成長が阻害されてきました。
  • 樹幹の空洞化: 樹齢を重ねた巨木ゆえに内部に大きな空洞があり、自らの枝の重みで裂けてしまう危険性を抱えています。

100年後の景色を守るための「断腸の決断」

令和6年秋、この歴史の証人を次世代に繋ぐため、大規模な保全作業が行われました。

将来的な倒木や裂傷を防ぐため、横に大きく広がった重い枝を伐採。若い枝へ力を分散させる処置が施されました。現在は、裂け防止のベルトや強固な支柱によって支えられています。

作業前の大欅
作業後の大欅

冬の時期は少し寂しげな姿に見えるかもしれませんが、それは「次の100年」を生き抜くための準備でもあります。春になれば、蓄えた生命力が鮮やかな新緑となって芽吹くことでしょう。

私たちができる、文化財保存の一歩

樹木は「生き物」であり、人間が完全にコントロールすることはできません。しかし、敬意を持って接することは誰にでもできます。

大欅のそばを通る際は、そっと一歩離れて歩く。

そんな小さな気遣いも、立派な文化財保存の形です。次に津和野を訪れる際は、ぜひ弥栄神社に足を運び、600年の風雪を耐え抜いたその幹の質感、そして百景図から続く歴史の息吹を、あなたの目で確かめてみてください。

共有: