投稿日:2016年12月29日
百景図もいよいよこれで最後となった。
玆監候が馬で遠乗りをするシーンである。
馬が六頭(疋)出てくるがどの馬が玆監候だろうか?
おそらく五頭目(昔は馬は疋と数えていた)。この馬が一番大きく立派に、しかも真ん中に描かれている。
何かお顔もこちらを向いている。「遅れるなよ」とか声を掛けているのかも知れない。
青い羽織の坊主頭が茶坊主、いわゆるお数寄屋番である。手に持つのは火縄とある。
ヒノキの皮や竹の皮、時にはモグサなどで縄を編んで作ったものだという。
三重県の名張市では今でも作っているという。これが無いと八坂神社の「おけら詣り」が進まない。
一旦火がつけば水につけない限りゆっくり燃え続け、江戸時代は火種に持ち歩き、重宝したという。
芝居小屋などでは小さく切って、ライター代わりに売っていたとも聞く。煙草を吸うのにもってこいだ。
お茶方はこれで火を燃やし、湯を沸かして旨いお茶を点てたのであろう。
さて、この青い羽織の茶坊主こそ、この絵を描いている栗本格斎その人だと思うのだが如何だろうか?
格斎さんがこの絵を描いているのは、齢70ぐらいである。当時としては大変な高齢である。
そして敬愛する玆監候は、すでに25年ぐらい前にお亡くなりになっている。
ということは、この絵の景色と同じように、まさに殿様の後を追いかけている格斎さんなのである。
「殿様、もうちょっとで私も着きますので、着いたら旨いお茶を点てますので‥‥」
そんなつぶやきが聞こえてきそうなのである。
この絵に登場する格斎さんは、丁度二十歳前後である。血気盛んな時である。
皆さんが「まあ、馬の後を追いかけるなんて大変ですねー」
と気の毒がってお話をされるが、案外格斎さんは楽しんでいたのではなかろうか。
殿様と自分の一番楽しかった思い出を、百景図の一番最後に、今の心境と重ね
そっと仲間に入れさせていただいた、そんな思いではなかったろうか。
そうでないと、行事でも何でもない遠乗りを、最後に持って来た思いが伝わってこない。
敬愛する殿様の側に自分の姿を入れ、心から満足して筆を置いたに違いない。
と、いうことで百景図よもやま話もこれで最後の話となり、私もこれにて心置きなく
新年を迎えることができそうです。
長い間私の拙文にお付き合いいただき、本当にありがとうございました。
皆様もよいお年をお迎え下さい。