投稿日:2016年11月18日
左の鐙(あぶみ)と書いてさぶみ。
高津川の上流山深い所にある地域の名である。
ここは平家の落武者伝説がある。
壇ノ浦で敗れた平家の一党が、安徳天皇を率いて、この中国山地に上ってきたというのだ。
ここを通過するとき、キュウリのつるに絡まれて、左の鐙(馬に乗った時足をのせる器具)を落としてしまった。
ところがこんなところでもたもたしていると、源氏の追っ手に追いつかれてしまう。
後ろ髪引かれる思いで去っていった場所が「左鐙(さぶみ)」というわけである。
なかなか面白い由来である。この他にもこの地には、平家伝説にちなんだ地名がいろいろ残っている。
興味のある方は是非訪れて調べて欲しい場所だ。地元ではこの高津川の支流を吉賀川と呼んでいる。
清流しか住まないヤマメやアマゴ、ゴギなども釣れる所だ。格斎さんが描くような鮎もたくさん捕れる。
しかし今は昔と違い、何十万匹も他所で買った稚魚を放流したもので半天然物である。
だが苔がいいせいか味は抜群である。特に単純明快な塩焼きがこの上ない。
ここでの鮎の食べ方は、頭からかぶりついて、腹わたから骨から、尻尾まで全部食べるのが流儀だ。
頭や骨を残していると「もったいない」と横から手が出てみんな取られてしまう。
盆あたりになると、高津川で捕れた鮎やツガニ(藻屑蟹)が、都会から帰ったみんなの御馳走になる。
清流高津川流域に住む我々にとって、鮎は将に故郷の味なのだ。
百景図のこの景色はいつまでも守っていかねばならない。
因みに鮎を香魚と書いているが、捕れたての鮎はスイカのようなさわやかな香りがする。香魚たる所以だ。
鮎のいそうな川に近づくとこの匂いがする。多分苔がこの香りの元になっているのであろう。
なお前に半天然物と書いてしまったが、地元魚協の努力で100パーセント天然物の鮎も多く混じっている。